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No.06 ボカロ文献ガイド


Written by ja_bra_af_cu


はじめに


 ボカロクリティーク再発行にあたり、ボカロを語り論じていく上で役立つと思われる文献を紹介していこうと思う。

 書籍、学術論文、ウェブ上のテキストや動画など、ボカロについて語っている情報は莫大な量があり、個人で全てを抑えるのは不可能に近い。そのため、私がここにあげるのも「管見の限り」のものにならざるを得ないが、重要度の高いものはそれなりに盛り込んだつもりである。なお、参照したURLはすべて2011年10月8日時点で最終更新を確認した。学術論文についてはいずれも Cinii (http://ci.nii.ac.jp/)を検索することでpdfファイルを入手できる。読者諸賢のボカロ考察の一助となれば幸いである。

 まずは、Vocaloidに関してあまり知識のない方のために概説的な内容を持ったものを紹介しよう1

概説

丹治吉順 2011 「『ボーカロイド』人気の秘密」 朝日新聞 2011年9月3日(土)b4面(be on Saturday)、
「仮想歌手に5千人熱狂 初音ミク『ワールドイズマイン』」 朝日新聞 2011年9月10日(土)e1面、e2面(be on Saturday)

 朝Pとしても知られる朝日新聞記者の丹治吉順によるVocaloid紹介記事。新聞ということで一般読者向けに文化現象としてのVocaloidの特徴を、ポイントを押さえつつコンパクトに紹介している。トピックとしては著作権とカラオケ、2011年7月にロサンゼルスで行われたライブに触れ、ユーザーコミュニティが現象を盛り上げてきたことを述べている。 

高屋大拙 2009 「ボーカロイドを取り巻く環境 」『待兼山論叢』大阪大学大学院文学研究科紀要 vol.43, pp.49-68 

 大阪大学大学院修士課程の学生によるVocaloid現象の概略。UTAUも扱われている。ニコニコ動画のコミュニティとキャラクター性とに基づいた活発な創作活動に注目している。 

剣持秀紀・大下隼人 2008 「歌声合成システムVOCALOID —— 現状と課題」『情報処理学会研究報告 [音楽情報科学] 』 2008 (12), pp.51-56 

 情報処理学会でのVocaloidの開発者による発表資料。ソフトウェアおよび音声合成技術としてのVocaloid(スコアエディタ、歌手ライブラリ、合成エンジン)について概説している。 

佐々木渉  2008 「仮想楽器をリアルにする『未来(ミク)の記号』と、VOCALOIDで注目される『人の形』『声の形』について」『情報処理学会研究報告 [HCI, ヒューマンコンピ] 』 

 初音ミクの生みの親といえる、クリプトンフューチャーメディア社の佐々木氏による情報処理学会における講演資料。初音ミクのデザインコンセプトを詳しく述べている。

スタジオ・ハードデラックス編 2011 『ボーカロイド現象』 PHP研究所 

 初音ミク発売の2007年から2010年までくらいにかけてのVocaloidムーブメントのまとめといえる一冊。Vocaloid関係者15名へのインタビューを収録している。

初音ミク視聴のススメ (http://sekiseblog.blog51.fc2.com/) 

 ウェブ上で読めるものとしては、本サイトが質・量共に優れている。ボーカロイドの歴史として各年の流れをまとめたり、キャラクターやPの紹介を行ったりと、初心者のみならずコアなファンも参考になるだろう。サイト左のカラムに記事の一覧があり、そこからアクセスできる。

 概説的なものは以上のようなところが入りやすいだろう。続いては、入門的なところから次に進む上で読みやすいと思われる雑誌・ムックを紹介する。

雑誌

Gekkayo(ゲッカヨ) 

 楽譜雑誌Gekkayoは、Twitter上でも編集長夫妻が盛んにボカロについて言及し、Vocalo Critique vol.01 にも寄稿するなどボカロに強い関心を寄せている。Gekkayo本誌でボカロが扱われ始めたのは編集長がTwitterを初め、そこでボカロを知ってまもなくであった(ゲッカヨ・エンタテインメント編 2010 『歌謡曲 Gekkayo 2010年7月号』 ブティック社)。

 その後も継続してボカロを取り上げ続け、2010年には 『ボーカロイド名曲100選』(ブティック社)、2011年には『Gekkayoボーカロイドfan』 vol.1、およびvol.2 (ゲッカヨ・エンタテインメント編 、ブティック社)という特集号が発売されている。

 いわゆる「歌本」雑誌ということで、専門のスタッフによって採譜されたメロディー譜とコード譜、歌詞が掲載されているので、作品論において楽曲のアナライズなどを行う際、大いに参考になるだろう。

 また本誌のウェブサイトでは家の裏でマンボウが死んでいるPのコラムやボカロPのリレー連載などが楽しめる(http://gekkayo.jp/index.html)。

 つづいて リスナー向けの普通の音楽雑誌に近い形態のものを幾つか紹介する。

『ポップ・ザ・初音ミク☆』 宝島社、2011年 

 CD付きのムックになっており、人気ボカロ曲と有名J-POP曲のカバーが収録されている。ボカロPたちと小室哲哉氏の対談が目玉となっているが、他にも「ホッピー神山・佐々木渉・sasakure.UK」の、および「野崎弁当×白服×ぜあらる。 シュールレアリスムを正しく理解するP」の座談会や、treow氏・whoo氏のインタビューなどが収録されている。

『ボカロP ライフ vol.1 2011年 10/14号』 学研マーケティング 

 こちらはインタビューとライブレポートが中心となっている。巻頭ではデッドボールP、ナノウ/ほえほえP、cosMo@暴走Pのグラビアとインタビューが特集されている。ライブレポートとしては、アメリカでの初のボーカロイド・コンサートとなった初音ミクLAライブ「MIKUNOPOLIS 2011 in Los Angeles —はじめまして 初音ミクです—」のものが掲載されている。他にはボカロP名鑑 Vol.1として70名分のショート・インタビューが収録されている。

 リスナー誌を紹介したので次はVocaloidにおけるプレイ誌に相当するものを。

DTM MAGAZINE 

 この雑誌で初めてVocaloidが紹介されたのは、2007年11月号の [特集 初音ミク-うたう電子の声] (寺島情報企画)である。その後も [2008年1月号増刊 CV(キャラクターボーカル)01初音ミク] 、[2009年5月号増刊 「巡音ルカ」] 、[2010年7月号 特集:初音ミクを拡張せよ] 、 [2011年9月号 特集:初音ミク 4th Aniversary ~電子の歌姫が創りだした世界~]、と四度も特集が組まれている。また2009年8月号ではUTAUがはじめて紹介された。Vocaloidの使い方や作曲、オケ作成、ミックスなどのハウトゥに関心のある方向けといえるだろう2

Windows100% 

 こちらは特にUTAUに関心のある人に注目して欲しい。フリーソフトの紹介で有名な本誌Windows100%(晋遊舎)では、2011年3月号からまる@Loop氏の解説によるUTAU講座、「Win100 UTAU教室」の連載が開始され、初心者向けにUTAUの概要の紹介と課題曲「ふるさと」の作成で音符の入力や簡単な調声方法の紹介がされている(参考URL : http://kenchan22.blog53.fc2.com/blog-entry-149.html)。4月号にはオリジナルUTAU音源「窓音モモ」が、5月号には「姉音モネ」の単独音音源と連続音音源が、6月号には「天羽ソラ」の新MMD3ユーザーモデルとUTAU音源が、それぞれ収録されている。

 ここまでは比較的軽めの出版物を紹介してきた。続いては批評・評論の分野でVocaloidに言及しているものを紹介しよう。

批評

『ユリイカ 2008年12月臨時増刊号 総特集♪初音ミク ネットに舞い降りた天使』 青土社 

 本同人誌内の拙稿でも多数引用し紹介したように、現在までで最も質・量ともにまとまった批評集といえるだろう。ニコニコ動画の「一般化」やボカロックの流行といった事象の以前に書かれているとはいえ、Vocaloidの文化的な側面の基本がしっかりと論じられているので、ボカロを論じようとするものはみな一度は通っておくべきといえる。

 筆者のブログにノートと注釈があるので、参考までに(http://d.hatena.ne.jp/ja_bra_af_cu/20110601)。

『S-Fマガジン [2011年8月号 特集・初音ミク] 』 早川書房 

 大のボカロ・ニコニコ動画びいきで知られるSF作家の野尻抱介氏(尻P)や山本弘、ジェバンニPこと泉和良のボカロをテーマにした小説や、小倉秀夫による音声データの著作権に関する法律についての考察、濱野智史による「初音ミク、その越境するキャラクター的身体について」という論考などが読める。

 濱野論文はミクの強力なジャンル横断性を経済学で云うネットワーク外部性4と架橋しており、後述する村上裕一『ゴーストの条件』と横断性に注目するという点で類似しているのが興味深い。

 他には、クリプトン社のVocaloid製品プロデューサーの佐々木渉氏、セガ社のプロジェクトマネージャー、内海洋(Project DIVAや「ミクの日感謝祭」ライブのプロデューサー)のインタビューが掲載されている。特に内海がスタッフへの80年代アイドルの影響を語っているのが筆者の目を引いた。

増田聡 2008 「『作曲の時代』 と初音ミク」『InterCommunication』 No.64 Spring 2008、 第17巻第2号、通巻65号、pp.80-3 ——2008 「データベース、パクリ、初音ミク」『思想地図』 vol.1 NHK出版 pp.151-176 

 増田聡はさすが本職のポピュラー音楽だけあって、考察の鋭さが頭ひとつ抜けている感がある。前者の「『作曲の時代』 と初音ミク」では、ユーザーによる再生の工夫による主体なき「作曲」の時代(ジャック・アタリ)になるはずが、歌声が身体と結びつく監修が強いため、ボカロがキャラクター的想像力へと容易に回収されていると指摘している。

 後者の「データベース、パクリ、初音ミク」では、サンプリングや引用を基本にするDJ文化とオタク系二次創作をデータベース消費として比較することを通じて、「パクリ」論争において人々が批判する「創作労力の軽減」と「パブリシティ(引用者注:ネームバリューによる動員力のようなもの)の利用」という二つの点を明らかにする。そして「パブリシティの利用」はアーティスト・キャラクター性にも及び、人はそこにアイデンティティを懸けているため批判が真剣なものになるという。DJ文化的な領域では主体は問題にならなくなるが、「パクリ」の領域では逆であり、また前述のようにボカロではキャラクター的な想像力が主体をもとめるという、複雑な様相を音楽のデータベース消費は呈している。粗雑ではあるが、要約するとこのようなところである。

 次は、主題とはしていないが議論の中でVocaloidや初音ミクに言及しているものを紹介しよう。

Vocaloidやミクへの言及 

 濱野智史『アーキテクチャの生態系——情報環境はいかに設計されてきたか』(NTT出版、2008年)では、人の行動や思考を左右する環境の設計、すなわちアーキテクチャを軸に、ウェブ・サービスの盛衰を進化論や自然淘汰になぞらえて論じている。ボカロに関しては、コンテンツという主観的にしか評価しづらいものを、コメントやマイリス数などの「客観的」な基準で評価可能にするというニコニコ動画のアーキテクチャ的特性5が、Vocaloidムーブメントを支えていたと論じている。

 斉藤環は『キャラクター精神分析——マンガ・文学・日本人』(筑摩書房、2011年)において、はちゅねミクの誕生を彼の議論の文脈でいいう「キャラクターからキャラへ」の変化として捉え、ヘタリアのキャラが二次創作で「キャラクター」へ変えられることと対比している。

 太田省一 『アイドル進化論——南沙織から初音ミク、AKB48まで』(筑摩書房、2011年)は、初音ミクをアイドル史の中に位置づけている6。70~80年代を通じてアイドルファンは愛着的なものと批評的なものの二つのまなざしをアイドルに注ぐようになった。90年代的なアイドルはある種完成されているために「批評的な」まなざしをそそげなくなっていた。そこへミクがあらわれ、「プロデュース」によって批評的な欲求を満足させることが可能になった。またミクは「若さ」というアイドルの条件を永遠に保つ理想のアイドルでもある、と言った具合である7

 村上裕一の『ゴーストの条件——クラウドを巡礼する想像力』(講談社BOX、2011年)でも、中心となっている「ゴースト」——ネットワークとキャラクターが結びついて中間共同体の形成をエンパワーし、ジャンル・メディア横断的な無数の二次創作を生み出す集合無意識のようなもの——という概念の好例としてボカロやMMDが上げられている。ニコニコ動画御三家・誤算家との並列・比較も興味深い。なお本同人誌寄稿者のsakstyleがブログで書評を行なっているので参考にして欲しい(http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20110916/p1)。

 批評関係の最後に、ボカロは直接登場しないが、キャラクターを論じる上での必須文献に触れておきたい。

東浩紀 2001 『動物化するポストモダン —— オタクから見た日本社会』 講談社現代新書 

 東に対しては、最近では反発の声も聞こえるようになっているが、萌え的な文化の説明としてもっとも成功しているのに間違いはない。オタク文化の物語受容は、「大きな物語」が物語の深層にあり読者をも規定していた近代の物語消費から、表層のシミュラークルからデータベースの要素を読み込むデータベース消費へと変化した。そこでのキャラクターは物語からの自律性をもっているので、固有の物語を必要としない。こうした特徴はVocaloidにも十分見られるといえるだろう。

伊藤剛 2005 『テヅカ・イズ・デッド —— ひらかれたマンガ表現論へ』 NTT出版 

 本書はキャラクターを論じた文献では必ず引用されており、もはや古典といってよい位置づけとなっている。なかでも第三章において「キャラ」と「キャラクター」の区別を提示したのが重要である。

 キャラは「多くの場合、比較的に簡単な線画を基本とした図像で描かれ、固有名で名指されることによって(あるいは、それを期待させることによって)、『人格・のようなもの』としての存在感を感じさせるもの」(p.95)キャラクターは「『キャラ』の存在感を基盤として、『人格』を持った『身体』の表象として[読むことができ=原文傍点]、テクストの背後にその『人生』や『生活』を想像させるもの」(p.97)と定義されている。

 マンガの登場人物においてはキャラとキャラクターは重なり合っていて、ある登場人物がキャラなのかキャラクターなのかとはっきり区別することはできない。が、キャラ性をもっていることを読み取れる読者の前では、登場人物は物語のテキストから遊離し、複数のテキストを横断することができる。

 こうした視点は東のものと同様、Vocaloidにも応用可能だろう。ミク自身が「固有の物語」を欠いた存在であることはボカロ・ファンならみな知っているし、その反面、MMDの動画群やpixivのマンガ作品といった多くの物語があることをおもえば、応用可能性はほとんど自明ですらある。

 伊藤自身のボカロ論は、前述のユリイカでの「護法少女ソワカちゃん」論にくわえ、『ちくま』2008年3月号に所収されている「オタク文化の現在13 ハジメテノオト、原初のキャラ・キャラの原初」(2008年3月号、通巻444号、筑摩書房、pp.38-41)があり、図像抜きで考えにくいマンガのキャラ論に対して、ミクを「声」や「言葉」を中心に考えることで、新たな視点を得ている。

 あまり数がないが学術的な分野でのVocaloidにも触れておこう。

アカデミズム

 アカデミズムの中でも人文・社会系でのVocaloid研究はまだあまり行なわれていない様子であり、先述した高屋大拙や増田聡のものくらいであろうか。それだけに批評の役割は大きいといえよう。

 自然科学系においては、Vocaloidが立脚している音声合成の分野に莫大といっていい蓄積があり、筆者の如き門外漢には概略を描くことも容易ではない。目についたものを紹介するにとどまることを寛恕願いたい。

VocaListener(ぼかりす): ユーザ歌唱の歌い方を真似る歌声合成パラメータを自動推定するシステム 

 産業技術総合研究所(産総研)による調声にかかわる研究。折に触れてニコニコ動画に「大漁船」のデモンストレーション動画をアップロードしているためVocaloid界隈のものなら皆知っているのではないだろうか。ある人間の歌唱からピッチやフォルマントなどのパラメータを取り出し、Vocaloidに適用することであたかも人間が歌っているかのような歌い方を実現している。HPはこちら(http://staff.aist.go.jp/t.nakano/VocaListener/index-j.html)。

渡辺晃生 2010 「対話型進化計算を用いたコンピュータ歌唱の表情付け」 東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻修士論文 

 ぼかりす同様、調声を簡便におこなう方向での研究だが、ぼかりすとは異なって人間の歌唱データは用いない。対話型進化計算といって、人間の良し悪しの判断をコンピュータにインタラクティブに学習させ、よい歌い方のアルゴリズムを作っていく、というような手法をとっている。

濱崎雅弘・武田英明・西村拓一 2010 「動画共有サイトにおける大規模な協調的創造活動の創発のネットワーク分析—— ニコニコ動画における初音ミク動画コミュニティを対象として」『人工知能学会論文誌』 vol.25(1), pp.157-167 

 ニコニコ動画における創作の連鎖——よい動画が上がると次々に派生動画が生まれるといったニコニコユーザーなら日常的に経験しているもの——に注目した研究。動画の引用関係をたどりモデル化することによって、つながりにより形成されるクラスタを可視化している。その多く(特に作曲の分野)では中心人物になるノードがあり創作を牽引していることがわかる。私たちの経験から得られる感覚を裏付けるものといえよう。

 なお本論文はユリイカ初音ミク特集での濱崎雅弘・武田英明「初音ミク動画はどうやって作られたか? —— ネットワーク分析による大規模な協調的創発的創造活動の調査」(pp.114-124)とほぼ同じものである。

南将貴・石原茂和 2011 「発話の感性研究のためのVOCALOIDを用いたワークベンチ」2011年9月5日 第13回 日本感性工学会大会発表資料(http://kanmisikou.net/files/kansei.pdf) 

 従来あった合成音声はパラメータやデータベースがいじりにくいため、代わりに研究に使えるツールとしてNet Vocaloid-Flexを利用したシステムを作成中である、という発表となっている。細かくパラメータが調整できるVocaloidの面目躍如といったところであろうか。Vocaloid自身のみならずそれを用いた研究にもこのような可能性があるのは興味深い。 

 ここまでは紙媒体の出版物を中心にあげてきた。続いては、Vocaloidに関する言論において無視できない重要性をもつウェブ・インターネット上の参考になるサイトを紹介していこう。 

ウェブ

ASCII.jp (http://ascii.jp/) 

 ASCII.jpは早くからボカロやニコ動関係の情報を取り上げてきた。四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 という連載を始めとして、ボカロPのインタビューや新製品、ライブの情報などを扱っており、ジャーナリスティックな情報源として興味深い記事を提供している。

 インタビューを受けたボカロPを目についた限りあげると、supercellのryo氏・デッドボールP・ハチ氏・baker氏・鼻そうめんP・山本ニュー氏・小林オニキス氏・すんzりヴぇrP、若干P、ヒッキーP、Dixie Flatline氏、キャプテンミライ氏などがいる8

 筆者が特に興味深かったのは、ボカロ・ニコニコ動画界隈で馴染み深い三つのフリーツール——UTAU、MMD、Softalk——の開発者たちのインタビューである。それぞれユーザーやコミュニティに対する独自でかつ優れた(設計)思想を持っていることがわかると思う。ページ情報は次の通り。
  • 四本淑三 interview with 飴屋・菖蒲(あめや・あやめ) 2010年8月14日 「あなたの声で歌うソフト『UTAU』の奇妙な世界」(http://ascii.jp/elem/000/000/546/546155/
  • 四本淑三 interview with 山崎信英 2010年08月29日 「初音ミクと『ゆっくり』の声、何が違う? アクエスト社に聞く」(http://ascii.jp/elem/000/000/550/550525/) 
  • ノトフ interview with 樋口M・あにまさ・ポンポコP・かんなP 2009年10月23日 「初音ミクがグリグリ躍る『MMD』の現状と未来」(http://ascii.jp/elem/000/000/470/470260/) 

ITmedia (http://www.itmedia.co.jp/

 こちらも有用な情報源である。インタビューなどが多いASCII.jpに対して、新製品やイベント情報などのニュースが多いといえようか。

初音ミクみく (http://vocaloid.blog120.fc2.com/

 個人ブログによるニュースサイト。一つのニュースに対してわりと長めの紹介記事を書くスタイルのため、概要をつかみやすい。なお、Vocalo Critique vol.01 も取り上げられており、頒布数に少なからぬ貢献をしたと推測される。

初音ミクニュース(http://hatsunemiku.blog107.fc2.com/

 こちらはニュース一件あたりのコメント量を減らして多数を紹介するスタイルをとっている個人ニュースブログ。界隈の話題を広く見回して興味ある記事を探したいときに有用である。

 では続いてボカロの考察や曲紹介をしているブログを幾つか上げておこう。

ブログ

 最近はあまり更新されていないが、「みっくみくなレイティアさん」 (http://reitia01.blog31.fc2.com/)は考察・曲紹介ともに充実した一線級のブログだった。2010年4月くらいまでの出来事を調べる機会があればあたってみてほしい。きっと役立つ情報に出会えるはずである。

 ボカロ曲を好みにあわせて効率よく検索するためのサイト「ぼかさち」(http://bokasachi.natsu.gs/)の運営者によるブログ、「ぼかさちVOCALOID考察部屋」 (http://d.hatena.ne.jp/xaby_bokasachi/)にもよい考察が掲載されている。ボカロ曲の歌詞の傾向を推定するなど、統計的データに基づいた議論が特徴といえる。

 「一詩人の最初の歌」(http://d.hatena.ne.jp/chroju/?of=4)は一エントリに幾つかの曲をまとめて紹介している。その週に聴いて気に入ったものをまとめたり、テーマに基づいてキュレーション的にまとめたりしたものもある。

 Vocalo Critique vol.01 寄稿者HazardLamp氏によるブログ「HazardBlog」 (http://blog.livedoor.jp/hazardlamp0085/)では、vol.01での氏の議論にあるとおりの、ボカロCD・アルバム単位での紹介・レヴューが行なわれている。

twitter, togetter

 twitter(http://twitter.com/)では多くのボカロP・聴き専・MMDユーザーが日々発言し、活発に意見交換が行なわれている。アカウントを取得し、彼らを「フォロー」すれば様々な立場からの多角的な意見を聞くことができ参考になる9

 そうした発言をまとめるためのサイトとしてtogetter(http://togetter.com/)があり、とくに界隈の多くのメンバー間で発言が盛んになった時などのまとめは見応えがある。次にいくつか上げてみよう。

 知性派ポストロック系プロミュージシャンのjsato_FLEETによるまとめ「初音ミク文化論『身体性なきボーカロイドの跳躍』」(http://togetter.com/li/70435、 2010年11月19日 )と、およびそのまとめへの反応を収録した「初音ミク文化論 ~AFTER STORY~」(http://togetter.com/li/72860、2010年11月26日)はクラスタ内外を含め大きな議論を呼んだ。スクリーン投影によるライブを実現したミクの身体性や聖性に注目が集まった。これらの議論を受けて作曲された「【初音ミク】Cipher サイファ【FLEET】【オリジナル】」(
http://www.nicovideo.jp/watch/sm13309167)もウェブ時代の作曲をめぐる状況への批評性を有した良曲である。 

 tokyoedit「ミクノポップからボカロックへ」(http://togetter.com/li/145873、2011年6月8日)は、シュールレアリスムを正しく理解するPを中心に展開された、ニコニコ動画Vocaloidカテゴリーのランキング上位に上がる曲がロック系のものへとシフトしていったことを論じた議論のまとめである。ニコニコ動画の一般化とならんで、現在の状況を知る上で重要な論考だといえよう。

 またもvol.01寄稿者によるものだが、isshyisshy氏も最近「ボカロ流行ったら食える作曲家増えんのかなぁ」(http://togetter.com/li/195194、2011年10月2日)というまとめを行なっている。CD売上の落ち込みなど音楽においてマネタイズを行うのが難しい、というか、これという決まった形をとれば済むようにはいかなくなった昨今の状況において、Vocaloid現象が置かれる位置を探る論考となっている。

 筆者ja_bra_af_cu自身も幾つかまとめを行なっている。その一つが「UTAUとボカロとカテゴリ迷子」(http://togetter.com/li/8958、2010年3月11日)である。合成音声を使ってキャラクターに歌わせるという文化的にはかなり近接したVocaloidとUTAUだが、Vocaloidがニコニコ動画においてカテゴリー名となっていること、技術的・ブランド的に区別すべきという意見もあることなどから、UTAUを使った曲は「Vocaloid」タグではなく「音楽」などのカテゴリーに投稿されているのが現状である。そうした問題について界隈で大きく議論になった時のまとめである。デスおはぎ氏などを中心に、2011年10月10日にVocaloidカテゴリーへUTAU曲を投稿しようという動きもある10ことから今後に注目すべきである。

 まだまだ言及すべきまとめもあるが紙幅の都合上すべては紹介できないので、ぜひご自身でtogetterの「vocaloid」「ボカロ」タグを検索してみてほしい。また筆者のtogetterアカウントの「お気に入り」(http://togetter.com/fav/ja_bra_af_cu)やはてなブックマークの「Vocaloid」+「togetter」タグ(http://b.hatena.ne.jp/ja_bra_af_cu/*vocaloid/togetter/)も参考になると思う。

 ウェブの最後は、濃い話が聴きたいVocaloidファン必聴の「聴き専ラジオ」である。

VOCALOID 聴き専ラジオ

 ボカロ曲やボカロ界隈について熱く語り合うウェブラジオ番組。毎週土曜日のだいたい23時くらいから放送されており、放送URLは(http://std1.ladio.net:8030/kikisenradio.m3u)、Twitterハッシュタグは(#kikisenradio)である。番組用ブログ(http://d.hatena.ne.jp/kikisenradio/)には過去放送の録音やTwitterハッシュタグのタイムラインをまとめたページへのリンクなどがある。過去放送についてはポッドキャストも行なわれている。

 有志のスタッフで運営されており、つい先日の10月1日に2周年&100回記念放送が行なわれた。個人的な取り組みでありながらこれだけ持続する情熱は素晴らしい。この熱意に打たれてか、しばしば重要人物がゲスト出演することがある(第59回放送にはインターネット社の村上社長、第60回にはAHS社の尾形社長、第62回放送にはクリプトン社の伊藤社長、とVocaloidを扱う会社の社長が軒並み出演している)。

 Vocalo Critique vol.01 寄稿者でもあるパーソナリティのNezMozz氏の語り口は軽妙かつ情熱的なところが魅力であり、さまざまなVocaloid現象へも批評的(クリティカル)な視点から語られるので参考になる。

 さて、ウェブラジオがでたところで、次は放送におけるVocaloidに触れておこう。参照しづらいので文献として紹介するのは少々難があるけれども、情報源としてのまとまっているし、一般への訴求力は放送に並ぶものはないので、やはり欠かすことはできない。

放送

エレうた!

 NHKラジオ第一にて、月一回のペース(事件や事故の報道でいままでのところそのペースは崩れているものの)で放送されている、楽曲+トークの王道ラジオ番組。パーソナリティは声優の桃井はるこ・花澤香菜である。番組HPは(http://www.nhk.or.jp/eleuta/)であり、放送自体もネット上で(http://www3.nhk.or.jp/netradio/player/index.html?r1)聴くことができる。女性同士の華やかでかしましい雰囲気が楽しく、時折、桃井氏のするどい見識も見受けられる。

 もっとも批評的なのは番組名かもしれない。「エレうた!」はVocaloidもUTAUもDTMでつくられた合成音声による歌唱ならOKという意味合いがあると思われ、先述した「カテゴリ迷子」問題に一石を投じるものである。一番組名なのでカテゴリ名として定着しそうな雰囲気にはないが、合成音声による歌唱をひとまとめに見る視点の提示としては成功しているといえよう。

ザ☆ネットスター! 、MAG・ネット

 TVでもVocaloidは紹介されている。NHK衛星第2テレビジョン(BS2)で2008年4月から2010年2月まで月1回放送されていたネット文化紹介番組「ザ☆ネットスター!」では「第1回 2008年4月4日 4月号 ねとすた☆大地に立つ!の巻」と「第13回 2009年6月5日 6月号 サムライねとすた大暴走!の巻」でボカロが紹介された。

 後継番組の「MAG・ネット ~マンガ・アニメ・ゲームのゲンバ~」でもその第1回(2010年 4月4日 (日) 23:50~)は「『初音ミク』」特集であった。「ミクの日感謝祭」ライブの紹介やOSTER project・まさたかPのインタビューなどが放送された。

VOCALO Revolution

 KBS(京都放送、2011年1月3日(月)23:00~23:55)ほかで放送された地上波では初のVocaloid番組。番組HPはこちら(http://vocarevo.com/aboutvr.html)である。番組の映像制作にボカロ関係のクリエイターが多数関わっているのが特徴で、番組オリジナルキャラクターのCULをLat氏が、REVをキオ氏が作成し、OP映像をわかむらPが、ED映像をまさたかPが製作するなどしている。

おわりに

 ここまでVocaloidについての、またVocaloidを語る上で役立つであろう文献を紹介してきた。最後に音楽を語る言葉を考えるための文献を示して結びにかえたい。

 20世紀後半から前衛音楽やサンプリングによるクラブミュージックなどによって、そもそも「音楽とはなにか」という考え自体が大きく変化してきている。とはいえ、まだまだ19世紀的なロマン主義の考え方も根強くわたしたちの足を絡めとっている。

 そのあたりの変化に目を向けるために筆者がすすめるのは小沼純一『サウンド・エシックス —— これからの「音楽文化論」入門』(平凡社新書、 2000年)、岡田暁生『音楽の聴き方 —— 聴く型と趣味を語る言葉』(中公新書、2009年)、増田聡『聴衆をつくる —— 音楽批評の解体文法』(青土社、2006年)の三冊である。

 いずれも私たちが素朴に「音楽とはこういうものだ」と考えてしまっているところの固定観念——音楽の授業的・スイングジャーナル的・あるいはロキノン的なそれ—— をうまくほぐしてくれる。

 以上に提示してきた文献があなたのVocaloid考察に役立ち、いつかVocalo Critiqueに寄稿などされることがあれば望外の幸せである。 


ja_bra_af_cu プロフィール

ジャズや黒人音楽が好きなドラマーでニコ厨です。じゃぶらふきゅーとお読み下さい。アイマス・魔王エンジェルクラスタのはずが、twitterの魔力によりVocalo Critiqueに関わることに(twitter ID: @ja_bra_af_cu)。
ブログ:Sound, Language, and Human(http://d.hatena.ne.jp/ja_bra_af_cu/)では、音楽やボカロを論じるための文献のノートやボカロ曲のレビュー(まだ数は少ないですが)をしたりしています。


脚注

1 本同人誌は文学フリマが初頒布であったため、あまりWEBやオタク文化に親しみのない人も読者として想定していたという事情がある。ボカロ界隈に日頃から親しんでいる向きにはあまり必要ないかもしれない。
2 ハウトゥ物にはほかにも永野光浩『VOCALOID2作成テクニック伝 —— 音程・歌詞の入力から自然感を出すテクニックまで』(スタイルノート、2010年)やヤマハミュージックメディアから出ている『Vocaloidをたのしもう』シリーズなどがある。
3MikuMikuDanceという3Dモデルアニメーションを作成するフリーソフトの略。ユーザーがつくったモデル・モーションを共有することによって、比較的容易に3D映像をつくることができるのが特徴である。
4あるものの利用者が多いほどその価値が高まり、利用する者自身の利益になるという概念・現象。
5 ニコニコのコメントが持つ基本的な性質、いわゆる「擬似同期」の大きな効果は言うまでもない。
6 作曲の書法という観点から同様の試みをしたものにim9d a.k.a. パッチワークPのエントリがある:http://www.imgd.net/2011/06/blog-post_15.html
7こうした文脈に位置づけるならもっと「アイドルマスター」を取り上げるべきではないか。アイマスファンでもある筆者は不満を隠せない。......と記していたら執筆最中に初音ミクがアイマスに出演するとの噂が聞こえてきた。ボカロとアイマスのコラボに期待が高まる。
8いちいちURLは示さないが、サイト内検索で「ボカロ Pの名前」と検索すればたどりつけるはず
9vocaloid関係者のアカウントを知りたい場合は、ニコニコ大百科の「vocaloid関係者のtwitter一覧」を参照するとよいだろう(http://dic.nicovideo.jp/a/vocaloid関係者のtwitter一覧)
10〝UTAUを「VOCALOID」カテで〟 『デスおはぎのブログ』 http://ameblo.jp/deathohagi/entry-11015298132.html 2011/09/12))
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CRITIQUE VOCALO,
2013/11/16 4:19